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2024.07.02

「ユーコン アクロバティックス」は、廃棄衣料問題に取り組む、パイオニア的ブランドでありたい

ヨヘン・スムダ ユーコン アクロバティックス共同創業者


5月下旬、ベルリンを拠点にするユーコン アクロバティックスのヨヘン・スムダ共同創業者が来日。廃棄衣料からつくる、循環型のリサイクルテキスタイルに挑むなど、サステナビリティを掲げるブランドの中でもパイオニア的存在のブランドを率いている。ユーコン アクロバティックスの創業から今日に至るまで、サステナビリティについて、エシカルについて、彼に思いを聞いてみた。

ー10代でユーコン アクロバティックスを始めたと聞いたのですが、具体的には何歳のときに始めたのですか?

19歳のときに(2001年)このブランドを始めた。当時は、プロスケーター(ローラースケート)だったので、Tシャツブランドを作ったのがそのキッカケだった。ブランドが大きくなるにつれて、ストリートファッションブランド、カジュアルブランドと変遷していったんだよね。

2015年からヨーロッパに製造を移して、オーガニックコットンやリサイクルペットボトルを使ったアパレルを始めた。当時はサステナビリティはまだ浸透していなかったので、価格が高いとなかなか売れずに、認知度も上がらなかった。そのときに、アパレル以外のカテゴリーもはじめてみようということで、財布や小さいバッグ、トートバッグなどから始めた。徐々にバッグの売り上げが増えていった。2年ほどは、アパレルとバッグの両方を手掛けていた。アパレルについては、毎シーズン、コレクションを手掛けたりしていたけれど、労力はアパレル80%、アクセサリー20%に対して、売り上げはアクセサリー80%、アパレル20%と逆転していた。そこで2017年からバッグとバックパックだけに絞って展開することにした。

ー元々、ファッションに興味があった?

いや、ローラースケートの友人たちの多くが、Tシャツブランドを次々に立ち上げていったんだよね。だから、僕も影響されて、ブランドを作りたいなと思った。親友がグラフィックデザイナーだったので、彼の家でTシャツを作っていた。面白いでしょ?最初の3〜4年はとても小さなビジネスだったので、プリントもなんでも、自分たちでやってたよ。2001年、グラフィックアートのTシャツ制作のときから、ミニマルでクリーンなものづくりにこだわっていたなと思う。2015年にデビューしたとき、他のブランドはカラフルで装飾が施されているバッグがとても多かったんだ。だから、我々のミニマルでクリーンなバックバッグがとても新鮮に映ったのだと思う。

ーグラフィックアーティストの友人とはいつ知り合った?

プロスケーターになる前からだね。小さいときから育ってきた友人で、同じ地元のヒップホップコミュニティで知り合った。そのコミュニティには、ブレイクダンスのダンサーやグラフィックアーティストなどがいて、人脈が広がっていった。その後、僕たちは拠点をベルリンに移したけど、同じく海外に拠点を移していったアーティスト仲間がいた。我々のコレクションでアーティストとのコラボも手掛けているけれど、ロンドンやパリで活躍しているアーティストが、実は小さいときから遊んでいた友人だったってことも多いよ。面白いよね。

ー地元を離れて2007年にベルリンに拠点を移した理由は?

いい質問だね。地元はオーストリアとスイスに隣接する、南ドイツの小さな街だった。だから、いつかは拠点を移したいと思っていた。ミュンヘン、ハンブルグなどいくつもオプションはあったけど、ベルリンには地元で育った友人や、知り合いのアーティストなどが先に住んでいて、いいネットワークがあった。とてもクリエイティブな街でもあるので、ブランドを始めるにも、アーティスト活動をするにも環境が整っていると感じた。仲間たちと体験を共有することもできるしね。

ーヨーロッパでもまだサステナビリティが浸透していなかった2015年からリサイクル素材を使い始めましたよね。それはどういう経緯だったのですか?

最初は個人的な興味にすぎなかった。生活を送るなかで、サステナブルな食べるもの、着るものに触れる中で、サステナビリティを意識することがとても重要だと気づいた。だから自分のブランドでも同じように取り組みたいと考えた。当時は「サステナビリティなんて誰も気にしないよ」「サステナブルな素材だからと言われても高いから買わない」という反応が多かった。いまではサステナビリティに関する関心はとても大きな波になっている。これからも続いていくだろう。また、テキスタイルのリサイクルに関しても、「難しい」「調達が大変」などと言われ続けたけれど、今は大きなブランドもリサイクルの素材に取り組んでいる。日本ではまだ「サステナビリティ」についてあまり意識されていないけれど、ヨーロッパのようにそのうち大きな関心事になっていくと思う。We need to change!!僕たちが(日本の)この意識を変えなければね(笑)

ーおっしゃる通り、日本ではまだサステナビリティの意識が低いのですが、ヨーロッパの経緯を見てきたヨヘンから見て、日本でサステナビリティが浸透するためにやるべきことはなんでしょうか?

残念ながら、何かを「する、しない」という段階ではなくて。これは、政治の問題であり、メディアがニュースでしっかり報じることが先だよね。そして問題を知ることで、何かしなきゃ、変えなくちゃと思うことが大事。だから、まずは知ること。それで意識が上がり、行動につながるよね。

ー他にもサステナビリティにこだわるバッグブランドがあると思いますが、他社との違いや強みについて教えてください

デザインだけを見ると、ユーコンのバックパックは普通だよね。どのブランドも同じデザインに見えると思う。だけど、多くは外側の素材の10〜15%がサステナブルな素材というだけだよね。もちろん、それも大事なんだけど、直接見えない内側の素材が全体の80%をしめるんだよね。ショルダー部分のパッド、形を保つための素材など、バックパックの構造を考えながら、全てをリサイクルな素材に変更していった。マーケティング観点から見ると、見えない部分の素材にこだわる必要はない。だけど、リサイクルもそうだけど、どこまでリサイクルできるのか?どこまで循環型につなげられるかに、僕たちはこだわっているんだ。

ーロータス・インフィニティシリーズに使われている超耐久性のカスタム技術素材「ピュアテックス インフィニティ(PUrTEX∞)」などのサステナブルな素材の開発も手掛けられていますが、開発で大変なことはありますか?

いい質問だね。かつてはメーカーにお願いして、サステナブルな素材を仕入れて、その素材を使ってバッグを制作し、我々のロゴをつけていた。でも、実際には素材の透明性がそれではわからない。それでは、サステナビリティを掲げるブランドのアイデンティティとして、どうなのか?と思ったんだ。そこで、2001年からすべての工程を自分たちで手がけることにしたんだ。廃棄された衣料をシュレッダーにかけて、ケミカルリサイクリングをする。そこから糸を作る。作った糸を生地にする。その生地でバックパックを作る。とても手間暇、時間のかかることだけど、新しい素材開発に対する情熱がとても高い。それに、素材に関しても、縫製の仕方、作り方に対しても、透明性が保てるしね。他のブランドはここまで労力をかけてないんじゃないかな?

ロータス・インフィニティシリーズは、Ucon Acrobatics社が長年の月日をかけて開発した、超耐久性のカスタム技術素材「ピュアテックス インフィニティ(PUrTEX∞)」で作られたシリーズ。

ーリサイクル素材を使うことと耐久性の高いもの作るというのは、簡単なことではないと思うのですが。

素材作りについては、学び続けることだと思う。2021年から全て自分たちの手で全ての工程を手がけることに決めたけれど、いまだに学び続けている。ロータス・インフィニティシリーズに使われている超耐久性のカスタム技術素材「ピュアテックス インフィニティ(PUrTEX∞)」は、最初の納品は遅れたけれど、いまはスムーズに生産できるようになっている。10年前よりもリサイクルが簡単になったというのもあるけれど、全ての工程を手がけることで、スムーズに対処できることも増えてきた。糸を製造、生地の製造、すべての取引先や工程を変えてきた。とても大変だったけど、いろんなチャレンジができるようになった。素材を作っては、テストして、その結果を見て改良して、の繰り返し。素材を購入するときも、耐久性のテストがなされているよね。それと同じように、自分たちで作った素材は自分たちでテストをするようにしている。

ー循環型の素材を作るのは、とても情熱がいることだと思うのですが。その情熱はどこからやってくるのですか?

うーん、それはわからないな。でも、我々は製品が好きで、自分たちがやっていることが好きで、だから常にベストを尽くしたいと思っている。2015年、我々がオーガニックコットンやリサイクルポリエステルを使い始めたとき、多くの取引先に「リサイクルポリエステルを使うのは大変だからやめておきなさい」と言われた。でも、いまは、ナイキ、アディダスという大企業でも取り組んでいる。そのおかげでリサイクルポリエステルは価格も下がり、手に入れやすくなった。私たちは、もっと素材をよくしたり、サステナビリティにこだわった製品を作れると追求しているけれど、一方でファッション業界では、大量生産、大量廃棄は続いている。実際には、リサイクルされるよりも、売れ残った衣料は燃やしたり、埋め立てたりしている。だから、廃棄衣料は増えるばかり。いまは、それらをリサイクルするのは難しいと言われているけれど、もう大きな問題になっていて、さらに問題は膨らむことがわかっているよね。初期の段階で取り組むのは大変だけど、我々のブランドが道を作っていると思っている。そして、これから、廃棄衣料のリサイクルに取り組むブランドに、ほら、僕たちはこうやってやったよ、と伝えて、それを真似してほしいと思っている。いま、廃棄衣料のテキスタイルリサイクルを手がけるのは、わずか3社で対応できる量も限られている。リサイクルポリエステルと同じように、これから廃棄衣料のテキスタイルリサイクルに投資する企業が増えてくると思うけれど、今あるこの問題をどう解決していくのか?を常に考えるパイオニアでありたいと思っている。それが情熱の元になっていると思う。


ーあうん百科店では、「エシカル」をテーマにいろんなストーリーを掲載しています。ヨヘンにとっての「エシカル」の定義は?

「エシカル」の定義?広い意味があるよね。「エシカル」はスピリチュアルな意味ではないけれど、企業の従業員、企業のスピリット、ブランドの取り組みなどの背景も包括する。サステナブルな素材で製品を作っているからといって、エシカルな製品とはならない。説明するのが難しいね。企業が労働者に対してどう対応しているか、も含むよね。たとえば、コロナ後に働き方が大きく変わったよね。9時5時ではなく、在宅勤務も普通になった我々は、ウィーンにもオフィスがあるんだけど、働く人、商品、自分に対して、もっとオープンマインド(多様性を受け入れる)でいるべきだと思う。

ーこれから取り組みたい製品などの次のビジョンを教えてください

まずはPRに力を入れたいと思う。ユーコン アクロバティックスがどういうことに取り組んでいるのか、多くの人に知ってもらう必要があると考えている。そうすると、廃棄衣料のリサイクルにも注目が集まるし、我々の素材も使ってもらえる。また、消費者にもリサイクルやサステナブルに関する意識が高まる。人々や他のブランドにインスピレーションを与える立場でいたいんだ。

ーサステナビリティを追求することと、売り上げを追求することのバランスが難しいのでは?

時間の問題だと思う。どれだけ、サステナブルな素材を作るために工程を変えたとしても、ビジネスなので、結局は製品を売る必要がある。そうしないと、インパクトを与える立場になれないから。それでも、製品を売るよりも、いいものを作ることが重要だと思っている。長い目でみて、ユーコン アクロバティックスは2015年からリサイクル素材を使っていたんだな、とかわかってもらえるし、活動と一緒にブランドも知られていくと信じているから。

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