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2024.01.22

メガネに骨伝導イヤホンを装着し、視覚と聴覚の機能を拡張。世界につながりをつくるアイウェア「GLASSHORN」。


あうんエシカル百科店が、先日発表したSDGsマガジン『ソトコト』とのコラボレーション。
ソトコトが、SDGsに寄り添った事例や取り組みを取材して表彰し、広く世の中に伝えることでより良い未来とウェルビーイングな世界を共創する「ソトコトSDGsアワード」は2023年で3回目。そんな第3回目の受賞企業・団体について、あうんエシカル百科店でも全6回にわたりご紹介いきます。

今回ご紹介するのは、骨伝導イヤホンとメガネを一体化させた世界初のアイウェア「GLASSHORN」を製造・販売する『HYPHEN』です。CEO兼ディレクターの中屋なかや光晴さんに、「GLASSHORN」のアピールポイントや開発に至った経緯、将来に向けて広がる可能性について伺いました。

「聴こえ」「かけ心地」「価値」の3つを追求したアイウェア。

――受賞された「GLASSHORN」は、どんな製品でしょうか。

中屋光晴さん(以下、中屋) 骨伝導イヤホンとメガネが一体化した、これまでにないスタイルのアイウェアです。

――「一体化した」というのはどういうことでしょう。

中屋 従来の骨伝導イヤホンは耳にかけて使用しますが、「GLASSHORN」は弊社が製造・販売する専用のメガネのフレームに、完全ワイヤレスの骨伝導イヤホンを装着して使用します。日常的にメガネやサングラスをかける感覚で使え、音楽も通話も会話もこれ一つで楽しめます。

「GLASSHORN」。メガネと骨伝導イヤホンが一体化している。

――「GLASSHORN」の開発で注力したポイントを教えてください。

中屋 注力したポイントは3つです。1つ目は「聴こえ」です。骨伝導イヤホンの認知度はまだ高くなく、ユーザーも多くはありません。弊社『HYPHEN』では、その理由を骨伝導イヤホンの音質にあると考えました。テレビ会議やYouTubeのコンテンツを聞く程度なら従来の音質でも許容されますが、音楽を聴くとなると、音質が物足りないというのが私の印象です。そこで、「GLASSHORN」では、高音から低音まで幅広い音域をクリアに出力する技術を開発。まるでライブ会場や映画館で音楽に包まれているような迫力ある臨場感を感じていただけます。先日、とあるプロ向けのオーディオイベントに出展させていただきましたが、音に対しては一家言持たれているユーザーの方々からも、「いい音が聴こえるね」とお褒めの言葉をいただきました。また、イヤホンには「音漏れ」という課題がありますが、かなりクリアされたと自負しています。音漏れの原因は音の拡散です。「GLASSHORN」の骨伝導イヤホンはダブルマグネットという特許機構を採用し、音の拡散を抑えているので、静かな部屋で使っていても音漏れを感じないほど最小限に抑えることができています。

骨伝導イヤホン部分。臨場感のある音を楽しめる。

――注力された2つ目は何でしょうか。

中屋 メガネのかけ心地です。普段からメガネをかけられている方がよく実感される悩みは、モダン(耳にかける部分)やパッド(鼻あて)に生じる痛みやズレ、蒸れです。そんな悩みを解消するために「GLASSHORN」で採用したのが、3Dプリンターでつくる三次元ラティス構造のクッションです。弾力性のある素材なので一人ひとりの骨格にフィットし、長時間かけても疲れず、快適に過ごせます。また、モダンの曲線の角度にも細心の注意を払い、ミリ単位の調節を繰り返しながら、フィットしつつも締めつけを感じさせないナチュラルなかけ心地を実現しました。

三次元ラティス構造のクッション。ズレや蒸れを防ぐので、スポーツシーンにもおすすめだ。

――3つ目は何でしょうか。

中屋 メガネとしての価値やデザインを追求することです。骨伝導イヤホンとメガネを一体化させたアイウェアは世界初のプロダクトで、前例がありませんでした。そのため、重さ、角度、側圧、着脱のしやすさなどあらゆる部分をゼロから検証し、試行錯誤を重ねました。地道な作業を繰り返し、一体化したアイウェアとして違和感のないデザインに仕上げていきました。

骨伝導イヤホン部分は、マグネット式で簡単に着脱できる。

――SDGsとして貢献するのはどんな点でしょうか。

中屋 製造過程において、できるだけ廃棄物にならない素材を使うように心がけています。メガネのフレームやレンズには生分解性プラスチックを使っています。微生物が分解できるので、やがては土に還ります。クッションなど3Dプリンターでつくるパーツは基本的に端材が出ないので、リデュースを実現しています。蝶番はチタンなのでリサイクルできます。そして何よりも、「GLASSHORN」を愛着を持って長く使っていただくことこそが、持続可能な製品という意味で最もSDGsに貢献するものと考えています。

開発の原点は、耳が不自由でも補聴器を着けなかった祖母。

――改めて、一般的なイヤホンと骨伝導イヤホンの違いを教えてください。

中屋 一般的なイヤホンは耳の穴にはめて、音が外耳道内の空気を振動させ、鼓膜を震わせ、蝸牛など内耳の器官を通じて電気信号に変換されて脳に送られます。一方、骨伝導イヤホンは耳の穴にははめず、振動子をトラガスという耳の穴より少し手前側にある軟骨部分に当てます。振動は耳付近の骨を伝わって蝸牛かぎゅうなど内耳の器官に直接届き、脳に信号となって送られます。つまり、骨伝導イヤホンは鼓膜を介さずに音楽や人の声を聞くのです。

――鼓膜を介さないことのメリットはありますか。

中屋 イヤホンをつけたまま自転車に乗ったり、ジョギングをしたりしていると、車や信号の音が聞こえないため事故を起こす危険があります。電車や地下鉄でも、緊急停止などを知らせる車内放送が聞こえずトラブルになるケースもあるようです。骨伝導イヤホンは耳の穴を塞がないので、音楽を聴いたり、通話をしたりしながらも、同時に外の音も耳に入ってくるので安全です。また毎日、長時間イヤホンを使っていると、常に鼓膜を震わせることになるので、将来的に感音性難聴になりやすいとも考えられています。「難聴予備軍」にならないためにも、骨伝導イヤホンを使う習慣をつけてほしいです。

――振動子が当たる位置は、人によって違うような気もしますが。

中屋 おっしゃるとおり、顔の大きさや形は人それぞれなので、振動子の当たる位置は微妙に異なります。そこで、「GLASSHORN」では振動子を可動式にしました。いちばんフィットする位置に当てて使ってください。    

ロゴマークのある四角い部分が振動子。形状にもこだわっている。

     ――可動式は画期的ですね。ところで中屋さんは、なぜ骨伝導イヤホンに着目されたのですか。

中屋 着目した背景には、私の祖母が感音性難聴になったことがあります。祖母は105歳で大往生したのですが、晩年の20年間ほどは感音性難聴に悩まされていました。耳が不自由になると家族との会話が噛み合わなくなり、会話が減り、脳への刺激が少なくなり、認知機能も衰えていきました。家族は高価な補聴器を購入して勧めましたが、祖母は嫌がって着けてくれませんでした。エアコンの音を大きく拾うなど集音性がよくなかったのが理由の一つです。祖母とのコミュニケーションが減っていくなか、五感が一つでも衰えるとQOL(生活の質)は下がってしまうのだということを痛感しました。そんな頃に骨伝導技術に出合い、これだとひらめいたのです。「GLASSHORN」にはAIチップによるノイズキャンセルという、人の言葉と騒音や環境音を区別して、クリアな通話を可能にする機能を装備していますが、それも祖母の補聴器への不満があったからこそ。祖母に試してもらいたかったです。

――「GLASSHORN」はさまざまな人が、さまざまなシーンで音楽やコミュニケーションを楽しめるようにつくられていますね。

中屋 骨伝導イヤホンは別売りのどのメガネにも装着できるので、一つ持っておけば、スポーツ、仕事、遊びと、TPOに合わせてメガネをかけ替えることができます。最初は18種類のメガネを用意する予定です。アプリとしてトランシーバー機能も装備する予定ですので、友達やパートナーと一緒に自転車やバイクのツーリング、ジョギング、ゴルフなどを、会話を楽しみながらできますよ。さらに、将来的には自動翻訳機能も装備し、海外の人と母国語だけで会話ができるアイウェアに発展させたいです。

多様なメガネフレームは、“メガネの聖地”福井県鯖江市で製造されている。

――まさに、「世界につながりを創る」という御社のミッションの実現ですね。世界に向けてコミュニケーションが広がりそうです。

中屋 試作の段階はクリアしました。12月20日から「GREEN FUNDING」という購入型クラウドファンディングで予約販売を募り、その後、ローンチする予定です。興味を持ってくださった方はぜひ、以下のリンクよりご覧ください。

クラウドファンディングページはこちら

中屋光晴(なかや・みつはる)
大学卒業後、アパレルベンチャー企業創業期に入社し、ブランド立ち上げや再生を経験したのち、株式会社ジェイアイエヌ(現:株式会社JINS)に入社。商品企画、マーケティング責任者を経て2017年に新規事業「J of JINS」を立ち上げる。2021年に独立、HYPHEN株式会社を創業。

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photographs by HYPHEN Co., Ltd.
text by Kentaro Matsui

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