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2024.01.26

「取り組む」だけでなく「見える化」も。カカオ農家を支援する「メイジ・カカオ・サポート」の次のステップとは

あうんエシカル百科店が、先日発表したSDGsマガジン『ソトコト』とのコラボレーション。
ソトコトが、SDGsに寄り添った事例や取り組みを取材して表彰し、広く世の中に伝えることでより良い未来とウェルビーイングな世界を共創する「ソトコトSDGsアワード」は2023年で3回目。そんな第3回目の受賞企業・団体について、あうんエシカル百科店でも全6回にわたりご紹介いきます。

今回ご紹介するのは、『株式会社 明治』。同社が取り組まれている「メイジ・カカオ・サポート」を題材に、その歴史やこれまでの取り組み内容をうかがいながら、「企業のSDGs活動」をより深く知りたいと思います。お話ししてくれたのは、『明治ホールディングス株式会社』のサステナビリティ推進部サプライチェーンG(グループ)の原田暁枝さんです。 

生産国の農家を支援する『株式会社 明治』の「メイジ・カカオ・サポート」の取り組み

――「メイジ・カカオ・サポート」について、取り組みを始められたきっかけや、その目的をあらためてお話をいただけますか。 

原田暁枝さん(以下、原田) 『株式会社 明治』は2006年から「メイジ・カカオ・サポート」と銘打って、カカオ豆の品質を高める栽培技術の支援や、インフラ整備・学校教育など生産国の農家の生活を向上させる支援を続けています。 

この取り組みを始めたきっかけは、良質なカカオ豆の調達を目的に、生産国の現地調査を行ったところ、カカオ豆の栽培技術や栽培方法の不足、カカオの木の高齢化、低い生産性など、安定供給からは程遠い脆弱な環境でカカオ豆栽培が行われていることが分かったからです。カカオ生産の環境が整い、品質の良いカカオ豆が生産されるようになれば、安定した収量・適正な価格にもつながる。それは農家の皆さんにとっても、明治にとっても良い事なので、「メイジ・カカオ・サポート」の取り組みを始めました。

私たちはこうした産地が抱える社会課題の解決を支援し、持続可能な状態でつくられた「明治サステナブルカカオ豆」の調達比率を高め、2026年度までにこれを100パーセントにすることを目指しています。2022年までの調達比率は62パーセントとなっています。

――さまざまな支援を行っているかと思いますが、具体的な例を挙げていただけますか。 

原田 たとえば、取り組みの初期の例ですが、インフラ整備の一環でガーナで井戸を掘ったことがあります。村に井戸がなく、女性や子どもが川への水くみに従事しなくてはならない環境だったところに井戸をつくり、安心して飲める水の供給と憩いの場を提供することができました。

ガーナの子どもたちの様子。

一枚岩で進まないこともある企業のSDGsへの取り組み。 

――「メイジ・カカオ・サポート」の認知を上げる目的として「情報発信力を強める」必要性を感じ、原田さんが社内を横断するかたちで、取りまとめを行ったと聞きました。 

原田 私は、『株式会社 明治』を含む明治グループ全体のサステナビリティ機能を統括する部署内に2022年にできたサプライチェーンG(グループ)に配属され、カカオ豆を持続可能に調達するための業務に従事しています。その中心となるのはやはり「メイジ・カカオ・サポート」でしたが、情報発信を強化するためには取り組みを体系的に整理する必要がありました。 

――「体系的に整理する」ということは、これまでは体系的ではなかったということなのでしょうか。 

原田 実はそうなんです。「質の高いカカオ豆を持続可能に調達するために、生産国の農家を支援するという大きなビジョンは「メイジ・カカオ・サポート」に取り組む皆が持っていて、それぞれの部署がそれぞれのベストを尽くしていたのですが、認識の細かいところでズレがあったり、掘り下げると曖昧だったりと、私の立場から俯瞰で見ると皆が同じ目線で取り組めていないように思えました。なので、分かりにくかったり曖昧だった事を敢えて声に出して言ってみたり、可視化したりを複数の部署の人たちと繰り返し協議し、その結果を明文化することで、「メイジ・カカオ・サポート」に取り組む皆が情報を共有し、同じ方向で一体感を持って活動できるようになった感じがあります。

――2006年から15年以上にわたって続いてきた活動をあらためて調整し、まとめるというのは大変な仕事だったと思います。調整のなかで印象的だったことなどはありますか。

原田 「メイジ・カカオ・サポート」の支援は、国ごとに支援内容が違ったり、同じ国でも年によって支援したりしなかったりしているのですが、私には当初、それが計画性がないように思えたんです。しかし実際は、生産国それぞれから求められる支援をしていたから、一見バラバラに見えていたんだ。支援する側が決めた一方的な支援ではダメなんだと気づいたことを覚えています。

たとえば小規模な農家が多いガーナと、プランテーションで大規模農業を行っているエクアドルでは、必要とされる支援のかたちは違うんです。「生産国の農家を支援する」というと、かつての私も含め画一的なイメージを持ってしまうかもしれないのですが、国ごとの事情はそれぞれ異なるのだなという発見がありました。

――お話をうかがっていて、私も生産国それぞれに必要な支援が異なるということを初めて知りました。 

原田 さらに、こうした長年にわたる取り組みが適切に社外に発信されていないのは「もったいない!」と思いました。たとえば今年はこの国に苗木を何本提供したとか、この国で技術指導を行ったとか、定性的な情報としては存在したのですが、定量的には整理がされていませんでした。

――そこで情報を整理し、発信を強化されることにされたのですね。 

原田 はい。そして、これはただ単にカカオに関する取り組みの情報発信というだけにとどまらず、企業のESG(環境・社会・ガバナンスの3つの観点のこと)評価向上にもつながっています。 

いわゆる「グローバルメジャー」と呼ばれる国際的な大企業の多くは、毎年非常に詳細なサステナビリティレポートを出して、彼らの取り組みを開示しています。『株式会社 明治』は主に日本国内に向けて製品やサービスを提供している企業ではありますが、グローバル企業と肩を並べて戦うには自分たちの活動をしっかりと発信し、カカオ豆に限らず会社全体の評価を高めていく必要があると考えています。

また、私たちがSDGsに向けた取り組みなどをしっかりと発信し、消費者の方へお伝えすることで、消費者の行動にも変化が生まれるかもしれません。「こういう取り組みをしているんだ、知らなかったな」と思ってもらうことで、取り組みの輪がさらに広がっていくことに期待しています。

加えて、私たちがSDGsに向けた取り組みなどをしっかりと発信し、消費者の方へお伝えすることで、消費者の行動にも変化が生まれるかもしれません。「こういう取り組みをしているんだ、知らなかったな」と思ってもらうことで、取り組みの輪がさらに広がっていくことに期待しています。 

「メイジ・カカオ・サポート」のこれから。

――発信の一例として、新しく始められたことを教えていただけますか。 

原田 「メイジ・カカオ・サポート」のロゴマークをつくりました。今後、製品に表示されるほか、業務用の製品にも対応していきます。こうすることで、たとえば今後、当社チョコレートのパッケージで「メイジ・カカオ・サポート」の取り組みを知ってくださった方が、街のケーキ屋さんで「メイジ・カカオ・サポート」のロゴを見て「ここでも明治のサステナブルカカオ豆が使われているんだ。じゃあこのお店にしようかな」と思ってもらえるような、つながりが生まれればと思っています。

「メイジ・カカオ・サポート」のロゴマーク。
チョコレートのパッケージにもこのようにロゴマークが記載されている。

――「メイジ・カカオ・サポート」のこれからの取り組みについて教えていただけますか。

原田  現在、カカオ産地が抱える課題で解決が急務なのは、児童労働と森林減少への対応です。明治でも、児童労働を監視し改善するシステムを導入したり、GPSマッピングによる農園のモニタリングを行い、児童労働ゼロと森林減少ゼロに向けて取り組んでいます。今後もカカオ豆生産の持続可能性を高め、カカオに携わるすべての人が笑顔になるような取り組みを推進していきます。 

原田暁枝(はらだ・あきえ)
2001年、『明治製菓株式会社』に入社。
栄養系商品のマーケティングや役員秘書、量販店の営業、海外向け輸出営業などを担当。
現在は『明治ホールディングス株式会社』サステナビリティ推進部サプライチェーングループ 専任課長。

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